大型連休となった2019年春のゴールデンウイーク、当財団は今回も10泊11日にわたりミャンマーを訪問しました。
戸沢財団が主催するミャンマーでの「未来の扉 ~Song & Dance Show~」公演には、心に傷を持っているこどもたちや病気や障害のあるこどもたちにも夢を見てもらいたい、未来の扉をあける小さなきっかけになってほしい、という願いが込められています。3回目となる今年は、在ミャンマー日本国大使館のほか、国際交流基金からも後援をいただきました。
同行いただいたのは元劇団四季のミュージカル俳優たちを中心としたNPO法人心魂プロジェクト。難病のため病院で暮らす子供たち、学校にも行けない、ましてやミュージカルなど観たこともない子供たちに、生のパフォーマンスを届けようと日本全国をまわる彼らを、2015年頃から当財団も支援させていただいています。
プロの歌と踊りとミュージカルをミャンマーの子どもたちにも楽しんでもらいたい!その想いから、パフォーマーの皆さん6名と一緒に5つの施設をまわり、計8回公演いたしました。ヤンゴンにある2つの国立こども病院には前回・前々回も伺いました。そこでの評判がミャンマーの保健省にも届いたようです。「ミャンマー国内の子ども病院はあと1つ、マンダレーにあります。そちらにも是非!」との嬉しい要請をいただいてから約1年間、様々な準備を経て、今回のツアーではミャンマー国内の子ども病院3つすべてを訪問することができました。
※心魂プロジェクトに関する記事はこちら
※NPO法人心魂プロジェクト https://www.cocorodama.com/
【ツアー名】 「未来の扉 ~Song&Dance Show~」ミャンマーツアー2019
【開催場所】 ミャンマー国内のこども病院、ヤンゴン市内各施設
【公演日時】
4月29日 国立マンダレー子ども病院 1公演
5月01日 児童養育施設ドリームトレイン 1公演
5月02日 国立ヤンキン子ども病院 3公演
5月03日 翌日公演のリハーサル
5月04日 ヤンゴン日本人学校 1公演
5月06日 国立ヤンゴン子ども病院 2公演
【公演準備】
公演のメインテーマである、戸沢暢美がまだ見ぬ子ども達に遺したメッセージ「未来の扉」。その詩に込められた大切な想いを、海を越えてミャンマーの子ども達にも届けてきました。公演中に歌われる「未来の扉」は日本語なので、言葉の壁を少しでも超えられるように、全公演でミャンマー語に翻訳した歌詞カードを配りました。
戸沢暢美からのメッセージ「未来の扉」日本語訳はこちら
また、ミャンマーのヤンゴン空港に降り立った時点で気温は41度。停電や機械トラブルが懸念される環境下ですので、出来る限り最高のパフォーマンスを届けられるよう、日本から大量の機材を用意して持ち込みました。それら全てを各公演場所に持ち運びながら、連日こどもたちに全力で向き合うには、大変な体力が必要です。炎天下の10日間、全員が最後まで体調を崩さぬよう、移動には大型バスを貸し切り、公演先では毎日大量の氷と水を用意しました。
さらに今年は、マンダレーへの国内便移動もありました。飛行機に預け入れできる荷物の重量制限、移動中の振動の影響で故障の心配もあったため、動作確認にもミーティングにも力が入りました。
『生きる喜び』を『表現することを通して共有する』を理念に活動される心魂プロジェクトは、「歌と踊りで世界旅行」をしていくという公演スタイルでのぞんでくださいました。舞台から選ばせて頂いた方に地球儀を渡し、次に行きたい国を選んで頂くことでその日の演目が組まれていきます。会場が一体となって《選ぶ喜び》を共に味わえる、贅沢なプログラムです。
今回、用意された国は全14か国。日本、フランス、オーストリア、イギリス、スペイン、アフリカ、アラブ、カリブ、アメリカ、メキシコ、ペルー、氷と雪の国、打楽器の国、ピアノの国。公演時間には限りがありますので、全てのパフォーマンスをできるわけではありません。リハーサル時間も稽古も相当必要になります。いつでも出来るわけではないこのプログラムを、ミャンマーツアーだからこそ、との想いを込めて披露してくださいました。
普段は病院や家の中で過ごし、自由に旅行したりすることは難しい子どもたち。そんな子どもたちが地球儀をながめて「行きたいところ選び」に胸をおどらせます。誰もその日の構成を知らないという点も、『今を生きる』ことの大切さを教えてくれるミャンマー公演に相応しく感じられました。
【4月29日 国立マンダレー子ども病院】
ヤンゴンから国内便の飛行機に90分のり、メンバー全員がはじめて降り立ったマンダレー。日本人パフォーマーがマンダレーを訪れたのはおそらく今回が初めてではないでしょうか。
会場となるこども病院は、300床と550床の2つありましたが、550床の方を訪問しました。事前打ち合わせでは、病棟でも是非パフォーマンスを、とのお話もいただきましたが、飛行機での国内移動もマンダレー訪問も初めてでしたので、大ホールでの60分公演1回に全身全霊でのぞみました。お借りしたホールはクーラー完備の立派な会場でした。
とはいえ、病気の子どもが入院して治療をうける施設としては、日本の医療関係者から見ると衛生面等々が満足とは言えない厳しい環境です。完全看護ではないミャンマー、子どもが入院すると、家族は病院の敷地内に寝泊まりして子どもの世話をしなければなりません。
入院生活は、病気の子ども本人だけでなく親や兄弟姉妹全員での闘いです。
“辛い治療を忘れて今日を楽しんでほしい”
“地平線のその向こうに何があるか、心を自由にして楽しんでいただきたい”
そんな思いを込めて、パフォーマンスを届けました。
リハーサル中も、楽しそうな音楽に引き寄せられて、子ども達が代わる代わる覗きにきます。
ミャンマーでは初披露の「世界旅行」プログラムは大成功。ライブで作られるドラマにみんなでドキドキワクワクしていました。パフォーマーに寄り添われながら、音楽と共に笑顔の輪が広がっていきます。
公演中には泣いているお母さんもお見かけしました。病気のこどもを抱えて楽しくても悲しくてもこぼれそうな感情を必死でこらえている、20代前半の幼い笑顔でした。
【5月01日 児童養育施設ドリームトレイン】
2017年の最初のミャンマーツアーでも訪れたドリームトレインは、NPO法人ジャパンハートが運営している養護施設です。両親と住めない子ども達が暮らしています。
今年で3回目となる私たちの訪問に、140人の子ども達が集まりました。前回同様、子ども達は温かく迎え入れてくれました。
前回・前々回に会えた子との再会に、メンバー全員が胸を熱くします。「また来てね!」「また会おう!」その約束が叶った喜びにあふれていました。就職して施設を卒業した子ども達もきてくれていました。代わりに入所した新しい19名は表情を硬くしていましたが、公演の最後には笑顔で歌を楽しんでくれていました。
本番を待ちきれず、リハーサル中から一生懸命きいている子ども達も。
公演チラシが飾られた壁からも、今日を心待ちにしてくれていた様子が分かります。日本語版・英語版・ミャンマー語版の3パターン用意したチラシですが、ミャンマー語版はドリームトレインの子が毎年えがいてくれています。今回も手書きで4パターンを描いてくださり、1つはドリームトレインに、残り3つは各こども病院での告知用に印刷され、病院内で配布・掲示しました。
いよいよ開演です。ソーラン節やラバンバといった、情熱的で迫りくる歌声。ドリームトレインの子ども達との大切な歌である「BABAYETU:ババイエット」も歌いました。哀しみも辛さもすべてを吹き飛ばすかのような熱気で、会場は最高潮に盛り上がりました。
クラシックシンガーの美しい歌声と演出に、ため息が出るほどの反応もありました。
公演最後は、子ども達から歌と踊りでのお礼がありました。この日のために準備していてくれたことに感無量でした。
帰り際、理事長が財団の想いを話し始めたとき雷が鳴り始めました。雨は2018年10月以来とのこと。自然の演出がなんともドラマチックでした。
公演の中で歌われた『未来への扉』を、子ども達が熱心に歌詞カードを見つめて口ずさんでくれる場面も。
「夢中で何かに向かう時人は一番生きている」
私たちが繰り返し伝えたいメッセージです。
戸沢暢美さんのメッセージが雷雨と共にミャンマーのこどもたちに響く忘れられない瞬間でした。
ドリームトレインの子ども達からの感想はこちら
【5月02日 国立ヤンキン子ども病院】
500床のヤンキンこども病院は、心臓病と急性期の病院です。壁一面に子どもの好きそうな絵が描かれていました。たくさんのこどもたちに触れられたミッキーマウスの鼻は塗装が落ちていました。ここでのパフォーマンスも3年目。テレビ局の取材カメラも入りました。
ホールで60分の公演をした後、病棟廊下で25分のパフォーマンスを2回おこないます。病棟では野外公演になるため、暑さと闘いながら体力勝負の一日でした。
病院の庭には、入院している子どもに付き添うために、沢山のご家族が炎天下で野宿生活をしています。日本では考えられない光景です。
まずは、ホール会場を拠点にして公演の準備です。我々のツアー活動を、ヤンキンこども病院の院長先生はとても評価して下さり、会場を毎年パワーアップさせてパフォーマンスをしやすくして下さっています。1年目には1台のクーラーもない会場でしたが、2年目には私たちのためにクーラーを設置してくださいました。そのクーラーが3年目の今回には2台に!さらにはステージも出来上がっていました。
開場時間になると、次々に人が集まってきます。小さな赤ちゃんを抱っこする親御さんもたくさんいます。ミンガラバーと挨拶をすると必ず挨拶がかえってきます。
パフォーマンスがはじまると、小さい子達は通路の一番前までやって来て、ついには最前列の床に座り始めました。病児・きょうだい児・ご家族のキラキラした姿は変わらずで、ため息をついたり、はしゃいだりして喜んでくれていることが分かりました。
人の声がこんなにも鳴るものだと、言うことを、大人もこどもも初めて体験している様子。今まで生きてきた中で体験したことの無い、不思議で力強い世界観だったことと思います。疲れた顔が緩んでいることが分かりこちらまで幸せな気分になりました。
通訳の方の力をお借りして、このツアーの想いを伝えます。
ホール公演の後は、機材を厳選して病棟へ向かいます。クーラーなどはなく、氷で首筋を冷やしながらのパフォーマンスを2回おこないます。
2年前初めてミャンマーで公演したとき、この病棟廊下で灼熱の中停電し、生声・ピアニカのパフォーマンスを届けました。日本とは圧倒的に違う条件なのだと痛感した、想い出の場所です。
病棟の方々には、より重たい病気と向き合っていること、その不安・疲れがありありと出ていました。廊下にずらっと並んだベッドの上には、楽しい音楽に起き上がることもできない幼い子どもが寝ています。急性期の病棟ならではの緊迫感でした。
病棟での1回目のパフォーマンス、つきあたりの小さなスペースです。セッティングの側にもベッドが並びます。とてもしんどそうに寝ている子ども達がすぐ近くで診療を受けていますので、スピーカーは小さいものひとつだけ使用し、生声で歌うことにしました。
集まってきたパパやママは、病児を抱っこして、床に座って熱心に見入っていました。
起き上がれず寝ているこどもたちに混ざって、ドアから溢れるほどたくさんの人が集まってくれました。目と目を合わして微笑み、手を伸ばしてくれる大人にハイタッチや手を握る事で、何かが伝わります様にと祈ります。
音楽の力で、ウキウキしたり、心をちょっとだけ解放しても大丈夫と誘いました。暑さと不安と疲れの中で、笑顔に出会えて嬉しくなりました。たった25分の出会いでしたが、すごく幸せな瞬間でした。
寄り添う雰囲気になった1回目の病棟パフォーマンスから心機一転、2回目の病棟パフォーマンスでは、新鮮で力強い空気感をお届けしようと、コロシアムのような中庭に向かってセッティングしました。
中庭にも、L字の先の廊下にも、たくさんの子ども達とご家族が集いました。大きなジェスチャーやマイクを使って、広い空間でリズム遊びでの交流を楽しみます。
不安でいっぱいのご両親にとっても、ひとときの安らぎの時間を過ごせてもらえたのではないかと思います。
【5月04日 ヤンゴン日本人学校】
ミャンマー国民に愛されるパダウの黄色い花が満開のヤンゴン日本人学校。公演日は土曜日でしたが、昨年までいらした校長先生が『全校生徒で見るべきだ』として下さり、登校日になりました。
大ホールとも言える体育館で、約500席の椅子を用意しました。一方で日本から持ってきた機材は僅か、出演者も6名だけ。準備とリハーサルは前日に念入りに行われました。演者6名中2名が演奏、1人がMCも兼ねたシンガー、残り3名で日本からの機材操作・学校からお借りした機材の操作、音響をしながらシンガーもつとめますので、一つ一つの動きのチェックに余念がありません。
その合間に、メンバー2名は、学校側のリクエストをうけて中学生むけのワークショップを行いました。本番でも登場するパフォーマンスです。1時間のワークショップでしたが、皆本気で取り組んでくれました。
全員で様々な工夫を話し合いながら、広い体育館を四季劇場に変えていく心魂プロジェクトのメンバーを、ヤンゴンで暮らすたくさんの方々がサポートして下さいました。3年目となる今年は益々多くの方がお手伝いをして下さり、日本人だけでなく、たくさんのミャンマー人も駆けつけて下さいました。様々な小道具や布が持ち寄られ、世界旅行のステージも華やかに彩られます。
ミャンマーツアーを支えてくださる皆様に感謝の気持ちを届けたい。暑いヤンゴンで暮らす日本人とそのご家族を応援したい。この公演にはそんな想いも込められていたため、日本人会や商工会議所を経由した広報活動もしました。
学校からも保護者へ積極的な告知をいただき、昨年の公演の噂を聞かれた方々も沢山いらしたようです。500席近く用意したスチール製の椅子は、ほぼ満席。親御さんに限らず多くの大人の方々が来場されました。
開演10分前から始まったウェルカムミュージックの中で、パントマイムや「ふんわり遊び」が始まり、子ども達はあっという間にパフォーマンスの世界へ。
体育館に設営されたステージ、教室からも運び込んだ椅子。限られた機材。しかし、行われたパフォーマンスは無限大にパワーを感じる世界でした。
パフォーマー達がもつ一流の技術と、想いを届けたいという心が重なって、まさに魂が会場全体を揺さぶりました。
前日のワークショップに参加した中学生達も、パフォーマンスに加わります。500名の観客を目の前に、表現に体当たりする彼らの姿が本当に嬉しく、そして幸せでした。
子供も大人も魅せられたあっという間の90分。大人も子供も、来場した全員にとってかけがえのない体験を届けられたと思います。
終演後、ハイタッチしてお別れした子ども達は、教室で覚えたばかりの歌を歌ってくれていたようです。また、来年も‼校長先生・教頭先生はじめ多くの方々から嬉しいお言葉を頂きました。
【5月06日 国立ヤンゴン子ども病院】
最後の公演は、ヤンゴンこども病院です。ここでも、子どもに付きそうご家族が中庭で生活しています。敷地内で洗濯物が風にたなびき、食事の配給も行われていました。ミャンマーの医療環境の厳しさが伝わってきます。
ヤンキンこども病院と同じく、ヤンゴンこども病院での公演も3年目です。60分のホール公演と、病棟プレイルームでの30分、計2回の準備をします。
約10日間のツアーの最終日、全員に疲れもみえはじめました。休養日も設けていましたが、灼熱の異国で連日パフォーマンスをするには、体力気力ともに相当のエネルギーが必要です。志高きプロとして、リハーサルを行いながらしっかりと仕上げていきました。
ホールが開場とすると、続々と人が集まります。
ここでも、最初はウェルカムミュージカルで会場をあたためて、癒しと楽しさで満たしていきます。喜びあふれる、素晴らしい空気感でした。
病棟プレイルームでも大盛況!まるでライブ会場のような盛り上がりになりました!
ツアー中に手応えが有ったものばかりを詰め込んだプログラムを、皆さんが心から楽しんでくれました。不安な日々を過ごしているであろうご家族が、心から楽しそうに大声で笑ってくれました。
ミャンマーで生活をする方々と、夢中に何かに向かう時の輝きを今年も共有させていただき、様々な場面で、一緒に今を生きている喜びを分かち合うことができました。
子どもたちの笑顔がやまない時間。
戸沢財団では、心魂プロジェクトの素晴らしい活動を今後も応援していきたいと思います。